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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)3030号 判決

主文

被告人是友武紀の本件上告を棄却する。

原判決中被告人是友徳惠に対する部分を破棄し、同被告人に対する住居侵入強盗教唆被告事件を廣島高等裁判所に差戻す。

理由

弁護人鍛冶利一、山村利宰平上告趣意は末尾に添附した別紙書面記載の通りである。

第一点について。

原判決は、被告人是友徳惠が光延久次に対し住居侵入窃盗の教唆をした事実を認め、其証拠として原審証人光延久次の証言と、同人の第一審公判調書中の同人の供述記載を挙示していることは記録上明らかである。然るに、右光延の原審公判における証言によれば、被告人徳惠は光延に対し、藤原常造方に侵入して窃盗をなすことを教唆したことになって居り、山本章三方に侵入して窃盗することを教唆した旨の原判決の判示と符合しないことは所論の通りである。そして第一審公判調書中の光延久次の供述記載を調べて見るに被告人徳惠が光延久次に対し住居侵入窃盗を教唆したのは山本章三方であって藤原方ではないことになって居り原判決の判示と符合するが原判決の証拠説明を見るに山本章三方に侵入して窃盗することを教唆したという部分は記載されていないので判示に符合する光延の供述があるという点が明らかでない、従って採証法則に違背したという論旨は理由があるから、被告人是友徳惠に対する部分は此点において理由がある。

第二点について。

しかし被告人是友徳惠が光延久次に住居侵入窃盗を教唆した事実は原判決挙示の証拠により認めることができるものであって所論の如き法則に反するところはない、論旨は原審の採用しない証拠に基いて原審の事実認定を非難するに外ならないから、採用し難い。

第三点について。

原判決によれば、被告人是友徳惠は光延久次に対して判示山本章三方に侵入して金品を盗取することを使嗾し、以て窃盗を教唆したものであって、判示日備電氣商会に侵入して窃盗をすることを教唆したものでないことは正に所論の通りであり、しかも、右光延久次は、判示植田博等三名と共謀して判示日備電氣商会に侵入して強盗をしたものである。しかし、犯罪の故意ありとなすには、必ずしも犯人が認識した事実と、現に発生した事実とが、具体的に一致(符合)することを要するものではなく、右両者が犯罪の類型(定型)として規定している範囲において一致(符合)することを以て足るものと解すべきものであるから、いやしくも右光延久次の判示住居侵入強盗の所為が、被告人是友徳惠の教唆に基いてなされたものと認められる限り、被告人是友徳惠は住居侵入窃盗の範囲において、右光延久次の強盗の所為について教唆犯としての責任を負うべきは当然であって、被告人是友徳惠の教唆行為において指示した犯罪の被害者と、本犯たる光延久次のなした犯罪の被害者とが異る一事を以て、直ちに被告人是友徳惠に判示光延久次の犯罪について何等の責任なきものと速断することを得ないものと言わなければならない。しかし、被告人是友徳惠の本件教唆に基いて、判示光延久次の犯行がなされたものと言い得るか否か、換言すれば右両者間に因果関係が認められるか否かという点について検討するに、原判決によれば、光延久次は被告人是友徳惠の教唆により強盗をなすことを決意し、昭和二二年五月一三日午後一一時頃植田博外二名と共に日本刀、短刀各一振、バール一個等を携え、強盗の目的で山本章三方奥手口から施錠を所携のバールで破壊して屋内に侵入したが、母屋に侵入する方法を発見し得なかったので断念し、更に、同人等は犯意を継続し、其の隣家の日備電氣商会に押入ることを謀議し、光延は同家附近で見張をなし、植田等三名は屋内に侵入して強盗をしたというのであって、原判文中に「更に同人等は犯意を継続し」とあることに徴すれば、原判決は被告人是友徳惠の判示教唆行為と、光延久次等の判示住居侵入強盗の行為との間に因果関係ある旨を判示する趣旨と解すべきが如くであるが、他面原判決引用の第一審公判調書中の光延久次の供述記載によれば、光延久次の本件犯行の共犯者たる植田博等三名は、山本章三方裏口から屋内に侵入したが、やがて植田等三名は母屋に入ることができないといって出て来たので、諦めて帰りかけたが、右三名は、吾々はゴットン師であるからただでは帰れないと言い出し、隣のラヂヲ屋に這入って行ったので自分は外で待っておった旨の記載があり、これによれば光延久次の藤原方における犯行は、被告人徳惠の教唆に基いたものというよりむしろ光延久次は一旦右教唆に基く犯意は障碍の為め放棄したが、たまたま、共犯者三名が強硬に判示日備電氣商会に押入らうと主張したことに動かされて決意を新たにして遂にこれを敢行したものであるとの事実を窺われないでもないのであって、彼是綜合するときは、原判決の趣旨が果して明確に被告人是友徳惠の判示教唆行為と、光延久次の判示所為との間に、因果関係があるものと認定したものであるか否かは頗る疑問であると言わなければならないから、原判決は結局罪となるべき事実を確定せずして法令の適用をなし、被告人是友徳惠の罪責を認めた理由不備の違法あることに帰し、論旨は理由がある。

第四点について。

原判決挙示の証拠によれば被告人是友武紀が本件強盗の情を知って光延の犯行を幇助したものであることは充分に認められるところであって所論の如き審理不盡の違法はない。論旨は原審において採用しない証拠によって原審の事実認定を非難することに帰するから採用しがたい。

第五点について。

論旨は結局光延久次の供述について為した原審の自由心証に対する非難に外ならないから採用しがたい。そして原判決判示の証拠により判示事実を認め得るものであり、所論の如き違法はない。

以上説明した通り被告人是友徳惠に関係のある論旨第一点及び三点は理由があるから同人に対しては旧刑訴第四四七条第四四八条ノ二により、被告人是友武紀に対しては同第四四六条によりそれぞれ主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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